「後縦靭帯骨化症」で人生初の入院&手術
実はこの夏、人生で初めての"入院"&"手術"を体験しました。病名は「後縦靭帯骨化症」。首の骨にくっついている靭帯が骨にトランスフォームしちゃうという不思議な病気です。
後縦靭帯骨化症とは?
後縦靭帯骨化症は、頚椎つまり首の骨の前後にある靭帯のうち、「後縦靭帯」と呼ばれる脊髄の手前にある靭帯が分厚くなり、まるで骨のように・・・いや、本当に「骨」になってしまうという病気。本来は伸び縮みする弾力のある部位で、骨と骨の間をつないで動きを安定する役目を担っているんですが、それが骨化することで困ったことが起こります。
- 頚椎の中を通る脊髄を、骨化した靭帯が圧迫する
- それにより、手足のしびれ、感覚が鈍くなる、動きがぎこちなくなるといった症状が出る(排尿・排便障害が出ることも)
- 転倒などの強い衝撃で症状が一気に悪化したり、四肢麻痺になることも
首には、頭部と身体の間をつなぐ大事な神経がぎゅっと詰まっていて、それはパイプ状の頚椎で守られているのですが、骨と神経の隙間がほとんどなくなってしまうことで、強い転倒などで骨が脊髄神経を傷つけてしまい、最悪、手足がまったく動かなくなる四肢麻痺になるリスクもあるというのです。
なんてこったい!!!
悲しいことに、一度骨化してしまった靭帯を元の状態に戻すことはできないそう。そんなこともあり、この「後縦靭帯骨化症」と発症部位が異なる「黄色靱帯骨化症」は、難病指定されています。
病気について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
●難病情報センター「後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)」
診断までの経緯
この病気が判明したのは5月下旬のこと。GWに車で能登半島まで行き、4日間の災害ボランティア活動に参加しました。帰宅後、なんだか手の指の動きが悪く、膝の曲げ伸ばしもしにくい。久しぶりに身体を動かしたから筋肉痛かな?と思っていたんですが、一週間経っても治らない。
「こりゃどうも、ボランティア活動とは無関係だな」
ちょうど五十肩らしき症状もでていたので地元の整形外科を訪れ、別の病院に紹介状を書いてもらい手首の検査などもし、最終的には元の病院に戻ってきてMRIを受けた結果この診断に。
骨化した靭帯はかなり肉厚になって、脊髄神経に完全に接触してしまっていました。
上の左側の写真で、長方形の骨が並んでいるのがわかると思います。その上から3つめと4つめの右側の黒い部分が膨らんで、白い部分が消えています。そこが骨化した靭帯が脊髄神経を圧迫している箇所です。「被膜が破れた電線みたいだな」と思いました。
これ以上は進行しないかもしれないし、悪化して症状も深刻になるかもしれず、「温存して様子を見る」という選択肢もあるものの、何かあった時のリスクはかなり高めな状況とのこと。医師の見立てとしては「手術推奨」でした。理由は「これだと最終的には手術することになる可能性大。だったら症状が進む前の早い段階がいい」だろうと。
その病院には、他の大きな病院から週1~2回など専門医も派遣されてきて外来を担当するので、成田赤十字病院の脊椎専門医が来る日にまた訪れて、画像を見て意見を伺ったところ、やはり骨化している範囲や脊髄神経との接触状況などから、「手術推奨」とのこと。
一度損傷した脊髄神経は元に戻せないため、悪くなって症状が進んだ後に手術をしても、その症状は残ってしまう可能性があるからです。
手術を受けようと決断
ここでひとつ、タイミングが悪いことがありました。
最初の診断が下った前々日、赤穂市民病院などでの医療事故の実話をベースにした「脳外科医 竹田くん」の漫画をたまたま読んでいたんです。そこには自分と同じ後縦靭帯骨化症の高齢女性が、手術ミスの結果四肢麻痺になったエピソードがありました(しかもうっかりドリルで脊髄神経を切断してしまうというありえないような実話ベース)。
これです。
●脳外科医竹田くん【第16話】緊急事態
●脳外科医竹田くん【第17話】頚椎神経損傷
読んだ時には、まさか数日後に自分が同じ病名を診断されるとは予想だにせず、「これはトラウマもの。電動ドライバ見るだけでこの話を思い出しそうだ・・・」「首の手術まじ怖い」と思いました。
そんなわけで、自分が同じ病気でかつ手術も必要な状況と知って、正直びびりまくり。目の前のとても熱心な医師が竹田くんとかぶってしまうほど(竹田くんのモデルになった先生も、診察室ではとても熱心で信頼できる人に見えたそう)
そして、自分なりにネットでいろいろ調べてみました。
- 今後も進行・悪化せず、骨化も症状もここ止まりになる可能性は結構高い
- ただ進行した場合、その後で手術をしても一度でた症状は改善しない可能性もある
- 転倒などで一気に症状が進んだり最悪四肢麻痺になるリスクもあるが、これもごく一部
- 骨化が進んで症状も出てしまっている場合には、早期に手術したほうが安全
「これは賭けだな」
そう思いました。手術すべきか温存するか、正解はない世界。
気になったのは、診断が下った患者が転倒で症状が一気に悪化したりする確率が低い理由について、「スポーツをやめるなど生活を変えているから」という要因もあるだろうと書かれていたレポートでした。
後縦靭帯骨化症などで頚部脊柱管狭窄症になっている知人も、「首に爆弾を抱えている」と言って、強い衝撃を与えないよう慎重に生活をしています。
自分も、もし温存という選択肢をしたら、バイクに乗るのもやめるだろうし、今後ひとりで旅行に行く場合なども、川下りをするなどアドベンチャーなことは見送ることになるでしょう。
でもそれでいいんだろうか。
首に抱えた爆弾を気にしながら残りの人生ずっと過ごすのはどうだろう、と。
自分の症状は、軽い痺れと関節のこわばりくらいで、生活に大きな支障があるわけではありません(階段の上り下りの時に手すりをつかまらないと不安という程度)。
手術することで、逆に神経に刺激を与えてしまい症状が悪化してしまうというリスクもありますし、竹田くん的な医療事故の可能性だってある。
だけど、脊髄神経のすぐ脇に骨化した靭帯があり接触状態になっているというリスクのほうが大きいのではと思いました。
あと、「家族が誰もいない」という境遇も、手術決断の大きな理由のひとつです。
昨年母が他界し、父も弟も既に見送っている自分は今、実家の一戸建てで一人暮らしをしています。何かあった時にサポートしてもらえる人もいない。四肢麻痺はおろか、歩行が厳しくなって一人で買い物に行けなくなるだけでも大変なことです。
「リスクは可能な限り取り除いておかなくては」
温存ではなく、手術を受ける決断をしました。
手術と入院
地元の病院に紹介状を書いてもらい、自宅から車で1時間ほどの国際医療福祉大学成田病院で手術を受けることにしました。2020年に開業した、この地域では非常に大きな基幹病院のひとつで、設備もピカピカです。今年3月には人間ドックも受けに行っていました。
いくつかの椎弓(四角い骨)にまたがっていることから、首の後ろから切開する「頚椎椎弓形成術」になり、入院期間も2週間程度で済み、割とすぐ動けるようになると言われ、安心しました。
手術日は2024年8月8日。前日に入院し、当日は歩いて手術室まで移動。手術室エリアにはいくつもの部屋があって不思議な空間でした。天井には大きな照明もついていてまさにドラマで見たことがある手術室の風景。
若い看護師さんたちが本当に献身的にサポートしてくれ、ベッドに不安な顔で横たわる自分を力強く励ましてくれ、感謝のあまり思わず涙してしまったほど。「この後麻酔薬を注入するとすぐ意識がなくなります」と言われお礼を伝えたところで、意識は消えました。
手術の日の夜、SNSにその時の状況をこんな風に書いていました。
その昔、母が部分麻酔の初手術で怖くて涙を流してしまったら看護師さんが「大丈夫だから。私がついてる」と、手をずっと握り続けてくれて、それがすごく支えになって天使に見えたと。 ああ、この感覚だったんだな。ほんと天使だよ!と実感しました。 全身麻酔で落ちていく中、「次に目覚めたらきっと病室で、もうこの子たちには会わないから今ちゃんと気持ちを伝えなくちゃ」と、「一期一会なんだけど、あなたたち最高です。感動で涙しちゃいました。本当にありがとう」と言い切れて、研修生も含むだろう若い女の子たち6~7人がベッドの周りを囲んでキラキラした笑顔を向けてくれていたシーンが、多分今日のハイライト。天井のライトとセットで脳裏に焼き付けました。
次に気付いたら、目の前には大きな照明器具。手術は終わって看護師さんも1~2人程度で、どこにいるのかも手術を受けたということもわからずにいた自分に状況を説明してくれました。
その後、ベッドごと病室に。
その頃には意識もかなりはっきりしていたので、午後に同じ手術を受ける同室の人に「全身麻酔したらあっという間に意識なくなって目覚めたら終わってた」「痛みはまったくない」「大丈夫、全然余裕!」的なことを、酸素マスクしたまま伝えました。
しばらく上半身は動かせなくなるだろうと、手術前にタブレットPCなどをベッド上テーブルの上に置き、Amazonプライムビデオを見ることができるようセットしておいたのは大正解でした。
首を一切動かさず、脚と腕だけを使ってそのテーブルを胸上まで移動させ、伏角に固定したタブレットPC(Surface Pro)でAmazonプライムビデオやYouTubeの映画を見まくりました。
ちなみにこんなマジックアームも持参しました。壁スイッチを押して照明のON/OFFもでき結構便利。
入院中の時系列での経緯はこんな感じです。
8月8日9時 手術開始(実際に始まったのはもっと後)
8月8日12時40分 手術が終わって病室に戻ってきたことを写真付きでSNS報告
8月8日16時過ぎ 麻酔も完全に冷め、Amazonプライムビデオで映画を見始める(その日2本視聴)
8月9日8時頃 術後はじめての食事(その後一瞬だけ胃が気持ち悪くなる)
8月9日10時 術後1回目のリハビリは車椅子でのトイレトレーニング
8月9日午後 ベッドのリクライニング角度もある程度つけてOKに(寝たきりで背中が凝っていた)
8月9日 前日ハイテンションだった反動かちょっとぐったり(術後ずっと痛みなどはなし)
8月10日 割と動けるようになり手足を触って確認/皮膚感覚がかなり鈍くなっていて、術後の手足の強いしびれは収まってきたが、肘から先などに残る
8月10日9時頃 手術室のスタッフ群がきて首の後ろのドレン管が抜かれる
8月10日午後 点滴も外れる(針だけ残した状態)
8月11日9時 尿管も抜かれ足のポンプも外してOKになる
8月11日12時 軽い発熱(割とすぐに収まる)
8月12日 車いすでのフロア内自走が許可される(ひとりでトイレに行ってOK)
8月14日 手術前にはなかった両手両足の強いしびれを訴えた結果、神経障害の痛みを抑えるタリージェが試験的に処方されることになり服用開始(特に効果はなかったので退院と同時に減薬して終わりにした)
8月14日 車椅子から歩行器に変更
8月15日 術後一週間で血液検査&CT検査→何も問題なく16日以降の退院可と主治医に言われる→当初の予定通り2週間入院させてもらうことにし20日の退院したい旨伝える
8月20日 退院
こんな感じです。
ずっと寝たきりだった当初2日間は背中というか腰が痛くなったけど、辛かったのはそのくらいで、手術した場所の痛みは最後までありませんでした。肩を含め、強いコリのような症状があり、何度かピリピリと軽い電流が走るような衝撃を感じたことがありましたが、これも退院までにはだいたい収まりました。
手術後に発生した新たな症状
一か月後検診でCT検査を行い、手術後の首の骨の写真などを見せてもらいました。
脊髄神経が入っているパイプ状のようなところは無事広がり、骨化した靭帯はそのまま残っていますが、スペースが広がったことで、脊髄神経との接触はなくなりました。ボルトもしっかり入って固定されており、何も問題ないとのこと。
今回手術を受けた最大の目的の「今後のリスクを減らす」は、無事実現しました。
ただすべてOKとはいきません。
手術前は右手にしびれがあった程度で、入院直前には関節のこわばりもほぼ収まっていたのですが、手術後には両手両足がしびれて皮膚感覚が鈍くなりました。手足のこわばりもかなり強く出てしまっています。
入院中、主治医からは「急に神経の周りの空間が広くなったことで起きている可能性はある」と言われ、落ち着くのを待っていたのですが、退院時にも状況は変わらず。
手術から2カ月ちょっと経った今も、
・関節のこわばり
・手足の軽いしびれ
・皮膚感覚の鈍さ
があり、特に朝方起きてすぐの頃は指を開いたり閉じたりするのもちょっと大変なくらいです。膝の曲げ伸ばしも違和感あり、階段の上り下りは必ず手すりをつかまっています。
1か月検診の時に主治医に聞いてみたのですが、この状況が治るかどうか、また治るのにどのくらいかかるのかなどはわからないとのこと。
まあ、人は大体の状況は慣れるもので、自分もいつの間にかこれがデフォルトになっており、多少不便ではあるものの、生活に大きな支障をきたすというほどではないので、時間かかってもいつか回復することを期待して、のんびり待とうかなと思っています。
退院後は、朝方杖をもって散歩して、毎日8000歩以上を目指していました。今は軽い筋トレなどをしています。手足のこわばりはあるものの、それを理由に動かさずにいたら筋肉まで衰えさらに身体が硬くなる悪循環だと思うので、運動はちゃんと続けようと考えています。
まとめ:手術を受けて
幸い、手術後の経緯も順調で割とすぐ車椅子や歩行器で動けるようになったので、入院生活はとても快適でした。建物も病室もピカピカで、食事が美味しく、看護師さんやリハビリ担当スタッフがとてもよかったことも大きいです。
後半は四人部屋のうち追加料金が必要になる窓際ベッドに移動しました。
成田空港を取り囲む森が目の前に広がり、外を眺めているだけでくつろげました。
お盆中とも重なり入院患者数が少なかったので(医師も夏休みをとっていて手術自体が減っていて、整形外科病棟はかなりガラガラだった)、病棟はとっても静か。パソコンも持ち込んでいたので、NHKオンデマンドを契約してドラマを見まくったり、日経平均が大きく下がっていたタイミングだったのでETFなどを購入をしたりちょっと仕事をしたりなんかもしていました。
手術・入院に大して今まで抱いていた高いハードルが一気に下がったというのが、今回得たもののひとつだなと思います。
もちろん、こんなに痛みや苦しさがない治療ばかりじゃないのは確かですし、命にかかわる病気なら不安の大きさも桁違いだと思いますが、
「入院や手術が怖いから病院に行くこと自体を見送ってしまう」
なんてことには絶対にならないと思います。
今回も、五十肩があったおかげで早めに行ってよかったと思うし、今後もちょっとでも違和感を感じたらすぐ病院に行くようにしようと決意しました。
とりいそぎ、私の入院・手術体験はこんな感じです。
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写真をいくつか。
ドレン管を抜いてくれたチームのスタッフの方に「"自分の城"感がすごいな、この病室!」と言われたテーブル。
【入院アイテム紹介】
— わだ│断捨離中の見守りテックコーディネーター (@wada_akiko) August 10, 2024
今回、頸椎の手術で、首の骨をカットするため術後はベッドから起き上がれなくなるということで、いくつかアイテムを持ち込みました。
暇なので紹介します。
〉続く pic.twitter.com/b7XGSbS81K
暇な時にはXに入院持ち物紹介とか投稿していました。
入院用に、古いTシャツを前開き化。使ったのはDAISOで買った布用の両面テープとワンタッチホック。
— わだ│断捨離中の見守りテックコーディネーター (@wada_akiko) July 23, 2024
ハサミとアイロンと小さな穴を開けられるものだけあれば作業は簡単だよ。 pic.twitter.com/7NXC3Zh1Cc
今回、入院用に古いTシャツ2枚を前開きにしました。
使ったのはダイソーで買ってきた布用のアイロン接着両面テープと、穴をあけてぱちんとハメるだけのホック。
今回の入院でもっともお世話になったのは、退院後も含めほぼ一か月自宅で猫を預かってくれた友人です。
しかも入院中、毎日SNSに猫がくつろいだり楽しそうに過ごしている写真や動画をたくさんアップしてくれ、それを見るのが毎朝の楽しみになっていました。
インスタグラムにもその一部がアップされています。
退院して猛暑の中を帰宅した日、冷凍庫の中にあったカップアイス2個。
入院前の自分が、退院した後の自身へのサプライズギフトとして仕込んでいたものですが、完全に忘れていました。