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マックのレジカウンターに住む・・・

写真ちょっと前のことだ。
私は、いつものように昼食を食べようとマックのレジカウンターに並んでいた。前は3−4歳の男の子の手をつないだ女性がオーダーしていた。

レジカウンターの手前側のへりには鏡状のものが貼り付けられていた。そしてちょっと体を動かした瞬間、その鏡に男の子の顔が映し出された。

 
驚きの表情を見せる男の子。

(この中に、女の人が住んでいる!)

その時、高校演劇部出身の自分が急によみがえってきた。
まばたきをとめ、目を大きく開き、そしてゆっくり口元に笑いを浮かべる。

(あ、僕に気がついた!!笑いかけた!!)

男の子は無邪気な喜びの表情になり、母親のスカートをひっぱって、カウンターの下部にとりつけられた鏡を指差す。
「何だっていうの?ちょっと待ってて。もうすぐだから・・・」
もちろん母親の目に見えているのは、床が映った鏡だけだ。男の子が見ている「不思議な女の人」のいる世界は理解できない。男の子はもう一回スカートをひっぱって注意を喚起したが相手にされず、再び鏡を見る。

やさしく目を細めて、ほんのわずかに首を振ってみる。

(だめだよ。君のママには見えないんだよ・・・)

利発そうな男の子はこっちのアイメッセージを理解したようだ。そして、声をださずに会話ができると思ったのだろうか。その目がきらきらとし、急にいろいろなことを語りだしたように見えた。

(えっと、ぼくはね・・・)

もちろん、子供もいなければ、児童心理学もわからない自分に彼の話したいことがわかるはずもないが、適度に表情を変えて同意の印を送り“会話”してみた。彼は妙に喜んでいるようだ。そしてその時、

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

マックの店員の声が男の子の秘密の世界に終止符を打った。
母親がトレイを片手で持ち上げ、レジに背を向ける。
子供も手を引っ張られるが、なかなかレジから目を離さない。

「さあ、こっちよ」

レジから離れながら、彼は何度も振り返り、そして何度も手を振った。
鏡の中の女の人は、やさしく微笑みながら、静かに彼を見送った。(さすがに周囲の目が気になり手は触れなかった)

そして・・・。
間違っても彼が出会ったレジ中の不思議な女性が、母親の後ろに突っ立っていたデイパックを背負った女の人だとばれてはいけない。鏡の中で視線があわなくなったのを確認すると、母親と男の子に慎重に背を向け、ちょっと斜め姿勢のままレジに近づいた。

「えっと、ハンバーガー。持ち帰りで」

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