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[夏読書] 旅をすみかに

写真願わくは
花のしたにて春死なん
その如月(きさらぎ)の
望月(もちづき)の頃

花と月を愛し、旅をすみかとした西行の一生を辻邦生が描いた・・・これは多分「歴史小説」というジャンルになるのだろうか(伝記ではないしね)。

文庫本になってるんだけど、割とボリュームがある(718ページ)。
この夏、久しぶりに読み返してみた。

武家に生まれ、鳥羽院の時代に北面の武士(警護役)としてつかえ、23歳の若さで出家。その後、歌の世界に生き、東北や四国へも旅をしつつ、俗世から完全に離れて隠遁生活というのではなく、都の権力の近くにも身をおき、政治にも関わり続けた歌人。その歌と人生に魅せられ、西行を研究テーマとする人は今も多いと何かで読んだ。

満月の頃、桜の木のもと、散りゆく花の中で人生を終えたいと願うこの歌は、ボキャ貧で歌のことなんて露ほどもわからない自分にも、朗々とした力強さ、「美」の世界を感じさせてくれる。自分ならどんな時期がいいかな、なんてポジティブに考えてみたり。。。

西行花伝では、一の帖から二十一の帖まで、語り手が次々と変わりながらストーリーが展開してゆく。秘めた恋、信仰心、俗世の権力闘争、花鳥風月、都、山・・・。
山家集に収められた西行の歌を軸に、悩んだり、悟ったり、嘆いたり感嘆する西行の姿が、いろいろな角度から描かれている。歴史小説では、その登場人物の胸中の思いなどは、その時々の状況や発言から作家が推察して書いてゆくのだろうが、西行の場合、折々に詠んだ歌がその手がかりになっている。

歌とその解釈だけ読んでも、自分のように素養がない人間はきっと、「うーむ、どの辺がすごいのかようわからん」で終わっちゃっただろうものが、こういう風に歌人の生涯の中に放りこまれている状態で読むと、心を打つ。

おしなべて
ものを思はぬ人にさへ
心をつくる秋の初風

そういえば、いつの間にか秋の気配(いや今日は冬の気配すらするぞ・・・)。
夏の読書週間はこれでおしまいです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


西行花伝
辻 邦生

発売日 1999/06
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おすすめ平均
この月の光を知らなくては、物の哀れなど解るはずはない
とにかく熟読すべき必読の1冊!
美しい文章です

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