酔仙酒造・大船渡蔵を見学 ~ 作り手の思いとこだわり

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陸前高田市に本社を置く酔仙酒造。
津波で伝統ある酒蔵が壊滅し、従業員も7名が犠牲に。それでも「必ず復興する!」との覚悟で、半年後には新酒の醸造を開始し、翌年隣の大船渡市に新しい工場を建設した。

今回チーム恵比寿のボランティアツアーでは、2日目にその大船渡蔵を見学させてもらうことになった。

●酔仙酒造公式サイト

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朝9時に到着すると、酔仙酒造の方が玄関で待っていてくれた。
今回酒蔵の案内をしてくれるのは、蔵人のひとり、金野泰明さんだ。

●「酔仙酒造の醸造課 何でもやります 金野泰明。」(酔仙酒造)
●「美酒伝承」の銘を受け継いで - Biz STYLE

まずはここで、震災以降に全国から寄せられた支援の話や新工場建設のことなど。

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そして一階のロビーからも近い貯蔵室へ。
ここは製造工程では最後の段階で、仕込みから濾過まで終わった酒を寝かせて熟成させるところ。

広い部屋にいくつものタンクが、床から浮かせた状態で並んでいる。

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日本酒好きなメンバーも多かったため、しょっぱなから質問がばしばし飛んだ。そして淀みなく話す蔵人の金野さんの話がまた非常に面白く奥深い。

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タンクの大きさはいろいろあったが、7,000L台のものが多いようだ。
空気中の火落ち菌が酒をダメにしてしまうことを防ぐため、タンクはぎりぎりまで酒を入れないとならず、そのため大きなタンクだけでなく、作る酒によっては小さなタンクも必要とのこと。

この大きな7700Lのタンクなら、一升瓶が4,000本近くできる。

「正直な話、一体誰がこんなに飲むんだろう」と思いながら作っているという金野さんの話に、一同大笑い。「こいつだよ!」と酒好きメンバーを指さす人も。

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側面には手書きで「S37.12.6」と書かれたガムテープが貼ってあった。
一瞬なんの日付だか全くわからなかったが、タンクの製造年月日だそう。

陸前高田の酒蔵で代々使っていたものはすべて破壊されてしまった。その後酒造り再開にあたり、ホーロー製のタンクを求めたものの、新たに作っているところがなく、中古のホーローのタンクを全国から集めたそう。

天井からぶら下がっていたホースは、火入れ後の酒を入れたタンクを急速冷却するためのもので、タンクのまわりのひだ状態のところは水を通せるようになっている。

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途中の通路には、震災後、再建を支援してくれた企業や団体からいただいたものなどを展示してあった。ここに並べきれないほど多くの支援を受けたので、定期的に展示を入れ替えているとのこと。

上段の左端には、トヨタの車のモデルとトヨタ紡織のつなぎの作業着が置かれていた。

震災後かなり早い段階で、トヨタから支援したいという申し出があったのだという。
再建の目途もついていない段階だったので一度はお断りしたが、その後工場再建の検討が始まったころ、再び県を通じて支援したいと言ってくれたトヨタ。そしてトヨタ生産方式の導入、それを踏まえた新工場の設計の話など、非常に興味深いものだった。

車と酒。あまりに違いが大きすぎどうなんだろうと最初は正直懐疑的なところもあったそうだが、実際には問題点を速やかに解決してゆく「カイゼン」など、地道なことではあるが非常に大きな効果があったという。公式サイトの「蔵人だより」にそのあたりの話が掲載されている。

●トヨタ紡織様による講習会 | 酔仙酒造
●トヨタ紡織様によるご支援、その② | 酔仙酒造

実はトヨタ紡織様には新工場建設にあたり、作業性を考慮したレイアウトや効率の良い稼働方法などについて定期的にご指導を頂いておりました。更に、工場竣工の折には「Rize Up, KESEN」の文字をあしらった揃いの作業服を全従業員分頂戴するなど、震災以降継続的なご支援を頂いております。

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企業の支援の形はいろいろあるが、さすがトヨタだなあと。
壊滅的被害をばねに、これまで以上に製造業としての競争力を高める貴重なノウハウ提供。再建の初期段階でコンサルを受けトヨタ方式を導入した企業は酔仙酒造だけではない。

●東京新聞:被災企業にトヨタ方式 復興へ「カイゼン」採用(東京新聞)

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ちなみに天井の灯りとりの窓も工場設計時のアドバイスに基づくものだそう。
このおかげで、日中は照明なしでも十分に明るい通路が実現している。

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続いて仕込み室。
広々とした、ぴかぴかの新しい木の床の上に、まるでマンホールのように金属製の蓋が並んでいる。

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既に日本酒造りの季節は終わっているため、中身はすべて空だが、シーズン中はこの下にある醗酵タンクの中には醪(もろみ)が入っている。

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うっかり中に落ちれば一瞬で落命するという話など聞かされ驚く一行。

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基本的に慎重かつ素直な人が多いので、「絶対に中にモノを落とさないよう気を付けてください」と言われ、おっかなびっくり、非常に腰引けた状態で撮影している様子がよくわかる。

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ここは確か、米を蒸す部屋。

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部屋の中央には大きなタンクが設置されていた。

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詳しく説明してくれたのが、このオレンジ色の容器。
「ためし桶」で、略して「ため」。

昔はすべて木製で、今でもその木桶時代のなごりで「たが」のような線がついていて、そのラインまで入れると確か18Lというような話だった。

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酒蔵に入った新人が最初に覚えなくてはいけないのが、この「ため」の取り扱い方だそう。運ぶ時は指を立てて底を持ち、振動がなるべく桶に伝わらないようにするという。

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また地面に置かないといけない場合も、必ず足先を底に差し込み、桶の底全体が接地しないようしたのだとか。昔は床は土で、衛生上必要だったようだ。

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この近代的な酒蔵でも、至る所に衛生管理の設備が設けられていた。

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最後は瓶詰行程を二階のガラス越しに見せてもらった。

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ちょうど瓶詰が行われていたのは、女性にも人気の発泡性のお酒「ShuWaWa」。
試飲もさせてもらったが、日本酒と言われないとわからないほど、さらっと飲める新感覚のお酒だ。

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瓶詰の見学ができる通路の壁には、日本酒製造工程を解説するパネルも掲示されている。

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麹室かな。
積み上げられているのが麹蓋だろうか。

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米麹は2日ほどで完成するのだという。

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なんと50分近くもの間本当に丁寧に案内をしていただき、再び一階のロビーに戻ってきた。

いよいよお楽しみの試飲タイムだ。

他にもいろいろな商品があるが、今回はこの6本が用意された。

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早速、試飲開始。

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オール岩手という「吟ぎんが」は、どちらかというと甘めな感じだが癖がなくさらりとした口当たりでとても飲みやすい。

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個人的にとても気に入ったのがこのあらばしり。
ボキャブラリー貧困でお酒の味を文章にすることができないのだが、日本酒を飲んでる!という満足感が高い味。

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ShuWaWaはまさに新感覚のお酒で、一般的な日本酒とは全く別の飲み方が楽しめそう。料理ともいろいろあわせてみたくなる。

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そして雪しぐれ。
濁り酒は好きなんだけど、癖が強すぎるものが多いのでちょっと飲んだらもういいかなと思ってしまうことも多々。これはそれがなかった。まろやかで柔らかい味。甘すぎることもなく炭酸も程よい感じ。

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瓶内でも醗酵が続いているため、蓋には穴が開いており、横に倒すとこぼれてしまう。そんな理由から運送に不向きで買えるのはここだけとのこと。

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ひとつずつ説明を真剣に聞きながら試飲する一行(あまりにも至福の表情になってしまっていたので顔を非公開にします)。チーム恵比寿は、どうやら女性のほうが日本酒好きのようで、全種類がっつり、人によってはお替りもしながら堪能していた。

雪っこの小瓶をいくつか買おうかなと思っていた自分も、試飲して予定変更。

・「吟ぎんが あらばしり」1本
・「雪しぐれ」2本

を購入した。
この2種類は、陸前高田の物産ショップ「一本松茶屋」でも販売されていなかった。
どちらも数量限定なので、買えるときに買っておかないとね。

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本当に大満足の酔仙酒造見学。
酒造りのこだわりや、復興に向けた力強い意思や取組みも理解することができた。

私たちは震災により、7名の大切な従業員を失いました。また、建物や設備など形ある物も全て失いました。しかし失わなかったものもあります。それは、歴史です。取り戻しつつある日常と、それらを残したい、繋ぎたいと思う意志が今の私たちを支えています。

●歴史、震災、未来への想い | 酔仙酒造

・・・これまで、直接酒を口にするエンドユーザーの声は、売り手を通じ様子をうかがい知るだけだった。それが、今回の震災で、多くのユーザーの生の声が、直接届いた。「ウチの酒がこれほど愛されていることに、改めて気づかされた」と金野氏は語る。励ましの手紙を読んだことで、これはなんとしても酒をつくり続けなければと思ったという。

●「美酒伝承」の銘を受け継いで - Biz STYLE

そんななか、その一角に津波の中で割れなかった一升瓶、樽が並べられていた。酔仙酒造の社員の方なのか、ファンの方なのか、すこしでも酔仙の跡を残そうとならべたのだろう。その様子を思い浮かべると切ない気持ちを抑えきれなかった。

●SINAPによる復興レポート -金野社長との初対面の日- | 酔仙酒造

公式サイトの「蔵人便り」は、震災三か月後の2011年6月から始まっており、道具もそろっていない中で試行錯誤しながら手探りの仕込み作業を行う様子などもレポートされている。非常に読み応えある復興記録なので、ぜひ時間がある時にでも読んでみてほしい。

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酔仙酒造のみなさま、私たち14人のために貴重な時間を割いて丁寧にじっくり案内をしていただき、本当にありがとうございました。

これからも美味しく、そして今まで以上に大切に、じっくり味わって飲んでいきたいと思います。

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なお酔仙酒造のお酒は、陸前高田の「一本松茶屋」でも買える。

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大船渡蔵では完売になっていた季節限定「春いちしぼり」も、ここにはまだ残っていた。

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ここで人気なのはやはり「奇跡の一本松」。
白い一本松のシルエットが細長く伸びたボトルは美しく、飲み終わった後、一輪挿しなどに使ってもいいだろう。

もちろん多賀多も人気だ。


酔仙純米酒 1800ml

Amazonでも、現地で買うより100円ちょっと高くなるが、「酔仙純米酒」が関東なら送料無料でAmazonで購入できる。
公式サイトの「蔵人便り」で作り手の方々の思いやこだわりを読みながら飲んだら、きっとまたひと味違う美味しさだと思う。

●酔仙酒造公式サイト

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